イタリアのビオディナミのマエストロ
ミケーレ・ロレンツェッティは醸造家で生物学者です。1971 年にローマ近郊のフラスカーティで生まれたミケーレは、ローマの大学で生物学を修めた後、さらに醸造学の学士号を取得しました。しかし、その間に慣行農法のブドウ栽培ではいかに多くの化学薬品が使われているか、そして土壌が単なる根に栄養分を与えるための人工的媒体にしか見なされていないことに強い衝撃を受けたのです。やがて、彼は土壌は生態系の一つであり、植物が健康に成⾧していくためには土壌が健康でなければならないという確信を持ち、そして、この考えを実践に移すための方法を探す中で、カルロ・ノロと出会い、ビオディナミを学びました。そして、2004 年からビオディナミのブドウ栽培と醸造のコンサルタントとして活動を始め、現在ではグラヴネルやイル・マッキオーネ、ラ・ヴィショラなどイタリア全土の数多くのワイナリーでコンサルタントを行っています。
ミケーレのビオディナミの師であるカルロ・ノロは、ローマの南にある Labico ラビーコで農場を経営し、30 年以上前からビオディナミのプレパラシオン(調剤)の販売とビオディナミの講座を開催している、フランスのピエール・マッソンのような、イタリアにおけるビオディナミの重鎮的存在です。ミケーレ・ロレンツェッティはコンサルタント業とは別に、カルロ・ノロの協力者として、ビオディナミ調剤の生産やビオディナミの基礎講座などにも携わっています。
ワイナリーについて ~テロワールの再発見~ ミケーレはコンサルタントという職業の経験的背景を完成するためには実践的な仕事が不可欠と考え、自身でもワイン造りをしたいという想いを持っていました。ある時、仕事でフィレンツェ北部の Mugello ムジェッロ地区を訪れた彼は、その地のミクロクリマに強い感銘を受けたのです。
ムジェッロは 15 世紀にメディチ家がトスカーナ地方を修めていた時代から、ワイン造りのために選ばれたテロワールでした。古文書によれば当時は 29ものワイナリーがあり、数多くの果物、そして特にブドウが栽培されていたと記述されています。1867 年にブルゴーニュ出身の醸造家ヴィットリオ・デリ・アルビジが父から広大な土地を相続します。その土地にはブドウ畑がありましたが、当時はトレッビアーノが栽培されていました。しかし、彼はこの地で個性豊かなワインを造るために、トレッビアーノをピノ・ノワールなどのフランスの高貴品種に植え替えていったのです。それはフランスの模倣ではなく、高貴品種によってムジェッロのテロワールの個性を表現するための試みで、大きな成功を収めました。しかし、フィロキセラによってブドウ畑は全滅してしまいました。過去のこの貴重な経験を現代に蘇らせるため、ミケーレは 2006 年に Mugello ムジェッロ地方の Vicchio ヴィッキオのコミューンに土地を購入して、自身のワイナリーTerre di Giottoテッレ・ディ・ジオットを設立したのです。