Jean-Louis-Raillard/ジャン・ルイ・ライヤール

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全房発酵の先駆者、栽培・醸造の教師が手掛けるヴォーヌ・ロマネ

ドメーヌが元詰めを始めたのはジャン・ルイ・ライヤールの両親の時代の 1968 年。ブルゴーニュ・ルージュのキュヴェからでした(画像上が当時のジャン・ルイの父による初めての元詰めワインのエチケット)。それ以前は全てのブドウをニュイ・サン・ジョルジュのネゴシアン、モワラール・グリヴォに売却していました。ジャン・ルイ・ライヤールは、1985 年からドメーヌで醸造を始めました。そして、ロマネ・コンティで働いていた両親の引退に伴い、1989 年にドメーヌを全面的に継承しました。現在の栽培面積 1.4ha 弱、総生産量は 8 千本前後です。他のヴォーヌ・ロマネのドメーヌに比べて極めて小規模です。

栽培はビオロジックで行っており、年に応じて年 4~8 回の耕耘を行います。醸造は全てが手作業で、ポンプは一切使わず、ゆっくりと時間をかけた醸造を行っています。赤ワインの発酵はグラスウールの発酵層で、野生酵母のみて自発的に行います。最初の 1~2日は足でピジャージュを行い、発酵の中間でルモンタージュを行います。全房比率は 10~50%で、熟成はバリックでシュール・リーの状態で行います。瓶詰めの約 1 ヶ月前の高気圧の時期を見計って 1 回のみ澱引きを行って、1 ヶ月後の同じく高気圧の時に無清澄・ノンフィルターで、重力を利用して自然に直接樽から瓶詰めします。醸造中の亜硫酸の添加も控えめです。


ライヤールは⾧年ボーヌの農業専門教育センターで、栽培・醸造の教師を務めています。ブルゴーニュには彼に教えを受けた造り手が数多くいます。そんなライヤールのワイン造りには、「流行を追う」のではなく「時代を映す鏡」のような側面があります。ブルゴーニュ全土に全房発酵が広がりを見せたのは 2010 年代に入ってからです。しかし、ライヤールはそれよりもずっと以前から全房発酵を行ってきました。全てが手作業の醸造、野生酵母による発酵、控えめな亜硫酸添加など、今や世界的に「ニューノーマル」になりつつある「人の手をなるべく加えないミニマルな醸造手法」をずっと以前から行って、淡い色調としなやかなテクスチャー、優しい香り高さ、抽出が強くなくエキスのうまみが染み出すピュアでエレガントな味わいのワインを生み出しています。

全房発酵を行うためには成熟した果梗を得ることが非常に重要です。私のドメーヌでは最も良く熟す区画や除梗しないブドウに適した区画を毎年見極めて果梗のついたブドウを収穫しています。まず、全房のブドウを発酵層の深部に置くことで、発酵が⾧く行われるという効果があります。全房のブドウはブドウの粒の中で発酵が行われるため、発酵層の中に温度の高い核の部分が生まれ、30 度を超える温度が⾧く維持されるのです。そして、アルコール発酵の期間がより⾧くなることによって、最適な抽出が行われ、異なる成分(タンニン、色素、ポリフェノールなど)が自然に結合します。また、果梗が発酵中の急激な温度上昇を抑えて、固体と液体の間の良好なバランスを取ってくれます。

発酵中に機械を使うピジャージュ(櫂入れ)やポンピングオーバー、激しい攪拌を行うと、揮発性の高いアロマがピノ・ノワールから失われてしまいます。このため、ドメーヌではこのような激しい行為を行わず、足でソフトなピジャージュを行って、揮発性の高いアロマがワインに残すようにしています。果粒の中で発酵したマストは、圧搾によって開放されて、焙煎やトースト、スグリなどのブラック・フルーツのノートを備えた凝縮したアロマを生み出します。また、新鮮なレッドフルーツのアロマを除梗したブドウの部分にも広げる作用もあります。それから、発酵層からワインを引き抜く際、発酵前には緑色であった果梗が深い赤色に変わっていることを確認することができます。

これは、果梗が発酵中に一部の色素とアルコールを捕える働きがあるからです(*このためワインの色調がやや薄くなる)。この際、果梗は内包していた水分を放出しますが、ヴィエイユ・ヴィーニュは若いブドウ木に比べて水分が非常に少ないという特徴があります(このため、ヴィエイユ・ヴィーニュの方が全房発酵に向いていると言えます)。幸いにもドメーヌの畑は樹齢が 60~80 年を超えるブドウ木が大部分を占めているため全房発酵向きと言えます。果梗と一緒に発酵させることは、樽熟成の間に、不快なアロマや還元反応を引き起こす原因となる大きな澱や沈殿物を皮や果梗が捕らえてくれるため、ワインが自然な形で澱引き・清澄されるという利点もあります。このため樽に移されたワインは清澄度が高く、マロ発酵終了後も樽熟成の間も、澱引きや樽の移し替え、あるいはポンプを使った作業などは一切することなく、静かに寝かせておくことができます。そして、熟成後も無清澄・無濾過の瓶詰めが容易になります。

ドメーヌでは、発酵層からワインを引き抜く際に機械は使わず、手作業で小さな桶を使って行っています。手作業であるため、ブドウの皮や種、果梗をこねくり回すことはありません。また、圧搾も非常にソフトに行うことができます。このため、ワインには不快なえぐみや苦み成分が付くことはなく、ワインに過剰なストレスを与えることもありません。
バリックでの熟成においては、焼きのややしっかりした新樽の比率を高めにしています。これはバリックが、発酵中と発酵後の果皮浸漬の際、特に醸造温度が 30 度を超える際に、抽出されたブドウの種に由来するタンニンを補完してくれるしっかりと溶け込んだタンニンをワインに付与するとともに焼いた木の微かなニュアンスももたらしてくれるからです。
ドメーヌでは熟成中にバトナージュは行いません。なぜなら、澱は低気圧の時にはワインの中に均等に浮遊し、高気圧の時には樽の底に沈殿するため、バトナージュと同じ効果を自然にもたらしているからです。この特性を利用して、ドメーヌでは瓶詰めの一ヶ月前の高気圧の時期にワインの澱引きを行ない、瓶詰め時期もちょうど高気圧の時期になるようにプログラミングしています。ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティも全く同じ方法を取っています。

一般的に熟成中は、バトナージュをして樽の底に沈殿する澱を浮遊させないと問題が起きると言われます(澱がワインの重さで潰されるため)が、ドメーヌではシュール・リーの状態で熟成させることに関してはいかなる問題も発生していません。幾つかのドメーヌが、澱引きをしないことで還元の問題に突き当たるのは、SO2 の過剰な添加に由来するもののではないかと考えられます。
また、決してポンプを使ってワインを取り扱うことはありません。瓶詰め前にワインを樽から引き抜く際もポンプは使わず、樽の上部の穴からの空気圧によって、ワインを樽から押し出すという自然な方法で行なっています。この方法だと瓶詰め時に添加する SO2 はごく微量で済み、ワインのアロマの全てを失うことなくワインの中に残すことが出来るのです。
ドメーヌでは、ワインのアロマはワインの熟成過程における最優先事項の一つと考えています。ワインをシュール・リーの状態で静かに熟成させることによって、新鮮な果物のアロマをしっかりと残しながらも、焙煎や燻した香りやトーストなどのトリュフに近いような香りもより多く残すことが出来るのです。


(輸入元より抜粋)

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