ルーションの地から、30年後にも美しく佇む「洗練と飲み心地」の表現!
2006年、ドメーヌ・ド・ロリゾンはトーマス・タイバートとヨアヒム・クリストにより創設されました。料理家の家系に生まれたヨアヒムはハノーファーで修業を始め、バーデン=バーデン、ブルゴーニュ(メルキュレイ、シャニー)の星付きで経験を重ね、フランスの食文化に魅せられて移住。レストラン勤務の傍ら大手ワイナリーで住み込みで働いていました。1992年に人生を変える一人の青年と出会います。それが当時ガイゼンハイムの学生だったトーマスです。テイスティング会に招待されたヨアヒムはトーマスが20種のワインを瞬時に的確に評し、ヨアヒムは「こんな人これまで出会ったことがない」と衝撃を受けます。その夜ヴィースバーデンの高級店でディナーの約束があったヨアヒムに対し、トーマスは「私も同じお店に行く予定があるんです。良ければご一緒しませんか」と聞きました。とても学生が行けるようなお店でなかったため、ヨアヒムが不思議に思っていると、トーマスがスタッフに「昨日も来たのに今日も来たんだね」と言われているのを聞き再び衝撃を受けます。彼は学生でありながら、既にワイン営業やコンサルを正式に担い、プロとしてお金を稼ぎ、その資金を使って徹底的に学び優れたワインを飲んでいました。そんな彼に惚れ込んだヨアヒムはトーマスを自らの店へと招待しました。トーマスはリストの9割を「飲めたものではない」と断じるが、その率直さが信頼へと変わり、彼の紹介と助言でヨアヒムの店のリストは飛躍的に進化。卒業後トーマスはオーストリアのグラフ・ハーデッグに勤務し、1994年に樽メーカーのストッキンガーと出会いドイツでの代理人としても働きます。
その後トーマスは、イタリア南チロルのManincorへ移ります。ヨアヒムは棚職人としても仕事をしており、同ワイナリーに木製ワインラックを納品しました。ある時トーマスはスイスで開催されたワインイベントに参加。友人が差し出した一杯を飲んで息をのみます。「なんて素晴らしい。これほどの凝縮、北ローヌだろうか」と。返ってきた答えは「いや、南フランス、ルーションのカルス。造り手はジェラール・ゴビーだ」。トーマスはすぐにゴビーのブースを訪ね、「南仏でどうすればこのワインが生まれるのか」と問いかけた。二人はその日のうちに意気投合し、スイスからそのままカルスへ向かいました。目の前に広がっていたのは、人口200人ほどの小さな村と、約400 haの見事な古樹畑。石灰質、黒・青のスレート、鉄分に富む赤土。多様な土壌が折り重なる光景でした。トーマスは「世界中に古樹の畑はあります。しかし、これほど広範囲に、しかも若樹がほとんどなく、すべてが古樹という土地は見たことがない」と一瞬で魅了される。当時、ヨアヒムとトーマスはワイナリーを始める構想を練っていました。当初はアルザスも候補だったが資金面の課題で難航。しかしカルスとの出会いが、二人の目的地をあっさり決定づけます。「畑は荒廃し、ビオでもなかったが、1 haあたり5,5008,000ユーロで購入できた。政府の補助金の対象になるために最小の15 haの畑を取得し、2006 年の冬にDomaine de l’Horizonを設立」と当時を振り返ります。立ち上げ当初の計画はGrand Vin BlancとGrand Vin Rougeの2種のみ。しかし畑の整備を進める中で、シラーやミュスカといった当初想定していなかった品種の混植が判明し、新たなラインEsprit de l’Horizon(エスプリ・ド・ロリゾン)が生まれました。
ルーションは、長く“南フランスの低価格・大量生産のワイン産地”という認識をされてきました。しか
し、過去20年でその土地の安さから、高品質なワイン造りを目指す野心的な若手生産者が集い、注目を集めてきました。ロリゾンが拠点を構えるカルスはペルピニャン北西、地中海とピレネーの狭間に開いた小さな村。ここは地質学者の夢のような場所だと言えます。褐色や黒のスレート、鉄分を含む赤いマール、そして浅い表土の下に露出する石灰岩の母岩、氷期の造山運動が折り畳んだ複雑な地層が、畑ごとに異なる表情を見せます。海風と山からのトラモンターヌ風が交互に吹き付け、病害を抑えビオディナミ栽培を可能にし、果実の温度を下げ、酸を守る。南フランスでありながら、きめ細かい涼しさが残るのは、この風の影響が大きい。カルスの畑には、樹齢80–100年を超える古樹が珍しくありません。自根や古い接木の株仕立てが岩の裂け目を縫うように根を下ろし、干ばつの年でも地中深くの水脈とミネラルへ到達します。引き換えに収量は平年で10–20 hL/haと劇的に低い。この地には“カルス派”と呼ばれる小規模な造り手たちが存在します。数十年前、ジェラール・ゴビーがビオロジック栽培へと舵を切り、セラーでの人為的介入を極限まで抑え、テロワールの純粋な表現を追求したことが発端でした。その流れを汲み、カルスには非介入主義と純粋表現を志す小さなドメーヌが集まり、ワイン界でも稀に見る情熱的で思想的な造り手の集団を形成しています。現在その中心にいるのがドメーヌ・ド・ロリゾンです。
ロリゾンの哲学は「介入しないための精密な介入」。畑は創業当初からビオディナミ農法を実践し、醸造では技術的介入や亜硫酸の使用を極限まで抑えてきました。現在はBiodyvin協会に加盟し、オーガニック認証も取得している。プレパラシオンとコンポストで土中の微生物環境を耕し、作業は月齢・風・天候のリズムに合わせて細かく調整している。主体は古樹のマカベウ、グルナッシュ・グリ、カリニャン、グルナッシュ・ノワール、シラー、少量のミュスカ。「ブドウの凝縮感は摘み遅れでは得ない。古樹×低収量という“畑の濃度”で得るのが原則」と語ります。手摘みの収穫と徹底した選果。醸造は区画・土壌・樹齢ごとに分割し、コンクリート、ステンレス、オークを使い分けます。発酵には野生酵母を使用し、抽出は控えめで、必要に応じて全房を用いて通気と質感を整えます。清澄・濾過は基本しないが、必要に応じて軽い濾過を行うこともあります。「私たちは市場でたまに見られる亜硫酸無添加や無濾過信者ではない。造りたいのは30年後にも美しく佇むワイン。そのために必要であれば最小限使用する。私たちにとっては完成したワインの品質が全てで、リンゴジュースやザワークラウトみたいな味にはしたくない。」目指すのは“飲み心地”と“洗練性”であり、南仏という土地から最初に想起される“力強さ”や“重さ”とは正反対の要素です。ですが、テロワールの巨匠ジェラール・ゴビーのワインが示したように、この地の畑が放つ“涼やかでエレガントな”表現力はすでに知られるところ。ロリゾンのワインも、古樹の魔力と痩せた土壌の緊張感、トーマスという奇才の存在によって“偉大なワイン”と呼ぶにふさわしい存在となり、瞬く間にカルト的な人気を博しました。
(輸入元より転記)



